自然主義文学とセクシュアリティ

―田山花袋と〈性欲〉に感傷する時代-

光石亜由美

〈性〉の言説分析

〈恋愛〉の時代から〈性欲〉の時代へ。
そして〈性欲〉に悶え〈性欲〉に涙する
人々を登場させた近代。

文学において〈性〉を描くこととは――

本書は文学における「性」「内面」の産出だけでなく、性欲学、自然主義文学、教育学、メディアといった様々な場が、〈性〉について語ろうとした時代――「性の言説化」に参与した時代として一九一〇年代を捉え、その中での自然主義文学の果たした役割を考えてゆくものである。(…)自然主義文学が隆盛を極めた一九一〇年代は、性科学、衛生学、精神病理学など、〈性〉に関する知の言説が登場してきた時代に重なる。生殖のメカニズムや、男女の性差を科学的に明らかにすることから出発した性科学は、次第に通俗化してゆき、「性欲学」という名のもと、恋愛論、芸術論を取り込みながら時代の〈性〉の規範となっていった。/こうした、同時代の科学的な言説を、自然主義文学が摂取、変容、再構成しながら、同時代の「性に関する知」の言説を形成していったことを探ることも目的としている。(「序章」より)

序 章 自然主義文学とセクシュアリティ

第Ⅰ部 自然主義文学と欲望の問題系

第1章 恋する詩人の死と再生―田山花袋「少女病」
第2章 〈少女〉という快楽―田山花袋「少女病」めぐって
第3章 生殖恐怖?―夫婦の性愛と田山花袋「罠」
第4章 『独歩集』における性規範―「正直者」「女難」を中心に

第Ⅱ部 性欲・感傷・共同体

第5章 〈告白〉と「中年の恋」―田山花袋「蒲団」
第6章 田山花袋「蒲団」と性欲描写論争―〈性〉を語る/〈真実〉を語る
第7章 日露戦争後の文学と性表現―〈性欲〉に煩悶する時代と〈感傷〉の共同体
第8章 自然主義の女―永代美知代「ある女の手紙」をめぐって

第Ⅲ部 自然主義と権力・メディア・セクシュアリティ

第9章 〈発禁〉と女性のセクシュアリティ―生田葵山「都会」裁判を視座として
第10章 猥褻のシノニム―自然主義と諷刺漫画雑誌
第11章 女形・自然主義・性欲学―視覚とジェンダーをめぐっての一考察
第12章 女装と犯罪とモダニズム―谷崎潤一郎「秘密」からピス健事件へ

A5判・上製・全384頁、本体3800円+税
2017年3月刊行
ISBN978-4-902163-93-3 C3091